今年も残すところ半月ですが、相も変らず脈絡無く乱読の1年だった気がします。
印象に残った本はその都度此処に記していた気がするのですが、それ以外で印象に残った本を少々。
今年読んだ本で個人的に最も興味深かったのは恐らくこの本。

「ルポ川崎」 池部 涼
東京と横浜の間に挟まれた工業都市「川崎」。その現代の状況というか風俗というか・・・のルポルタージュなのですが惹かれましたね。
著者は確か音楽ライターの方であった記憶があります。
その著者が2015年に川崎で起きた中1の少年のリンチ殺人に衝撃を受け、川崎の現状をルポしようとし出来上がったのがこの本ということでしょうが、読んでみて驚いたといいますか、日本も此処まで来たか?というと大げさですがそれに近い印象でした。
著者が音楽系ライターという事で、その筋では知名度の有る”BAD HOP”というラップユニットのメンバーからの伝手を頼りに、ラップやDJ、(ブレイク)ダンス、スケートボード、パンク・・・・etcといった若者に人気のカルチャーの担い手で川崎在住の連中(というと言い方が悪いかな)に取材するというスタイルで出来上がっています。
そしてこの川崎という街、若者に人気の音楽やカルチャーといった物を切り口にマスコミっ等では語られないであろう日本の現状といった物を見事に描いている本です。
確かラップという音楽やブレイクダンスといった物が日本で紹介され始め割と知名度を上げたのはたのは80年代になってからであったと記憶しているのですが、その時はアメリカ、特にNYのスラムというかゲットーというか、そうした所に住む本当に貧しい若者が始めた文化で、高価な機材等、当然手にする経済力も無い彼らが、中古(場合によっては拾って来たりした)ラジカセ等で流す音楽に乗ってやる激しいダンスや、シンプルなリズムに乗せる語り的な歌で、彼らの閉塞感の大きさがその激しさに繋がっている・・・等々の特徴というか印象というか・・・、まあ、そうした紹介のされ方だった筈ですが、現在の川崎、或いは日本の若者を取り巻く現状という物、既にそれに近くなっているという事を実感させられた本でした。
新自由主義に拠る貧富の差の拡大やその固定化、ある種の新しい階級社会化、そうした事を本能的に感じる若者達、その閉塞感、緩やかな絶望といった物が、刹那な暴力や、薬等による麻痺感に向かう現状・・・・。
其処から抜け出すためのラップ等の音楽・・・等。
そして悲惨な体験や育ち故に、より格好良く成れる、ラップバトル等で勝てるというある種の逆転的価値観というか・・・・。
またそこ、現場や街場、正に下から生まれてきたカルチャーというか・・・・(その辺りがHIP・HOPの本質なのかも知れませんが)
。
兎に角、迫力でした。
で、この本を読んで思い出したマンガがありまして、それも図書館で借り出し再読。
この本です。

「リバーズ・エッジ」 岡崎京子
ヘルター・スケルター等で著名な漫画家、岡崎京子が1993~94に掛けて描いたマンガ。
名作ですね。
そして恐らく舞台設定は、川崎(の西部、多摩川近く)でしょう。
93~4年というと、バブルのピーク後というか、ピークから下降線に入りつつあった時代ですかね?少なくともそうした気配は濃厚にあった時代というか、感覚が鋭い連中には感じられていた時代では無いかと思われます。特にこのマンガの登場人物の様な若者には、その行き詰まり感というか、そうした物は無意識に感じられていたでしょう。
偏差値教育、資本主義、バブル・・・・そうした時代風潮が生み出した、レールから外れると生き残れないというか、安定した将来のためには”今”を犠牲にしなければならないというか・・・、そうした感覚。豊かに見えて実はかなり厳しい生存競争的社会。その閉塞感というか不条理というか・・・・。
これを著者は”平坦な戦場”と表現したのでしょうが・・・・。
はい、ホント名作だと思います。これが25年程前にかかれたなんて驚くばかりです。
そういえば今年映画化もされたとかDVDでも借りて観て見るかな?
まあそんなこんなで今年印象に残った本です。
来年も良い本に出合えればと思っています。
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