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雑考43 ギムレット |
”Gimlet”を英和辞典で引くと”木工錐”と出ています。そう言えば昔、工事現場等でウロウロしていた折に合板などに穴を開ける木工錐を通称”ギムネッ”と呼んでいた覚えがあります(少なくとも、私にはそう聞こえていました)。その時は深く考えなかったのですが、今思えば英語だったのですね。バーテンダーになって初めて気付きました。


閑話休題、ギムレットと聞いて思い出すのはやはり”チャンドラー”。確か”ロング グッドバイ”の中だったと想うのですが・・・・。
「ほんとのギムレットはジンとローズのライムジュースを半分ずつ、他には何も入れないんだ」
の台詞。
しかしこのレシピで造ると、現代の感覚から言うと相当甘く感じます(ローズ社のライムジュースは加糖タイプで甘いのです)。これはどういう事か・・・?
”ロング グッドバイ”は確か1955年の作品。その頃のギムレットは今よりかなり甘かったという事なのでしょう。
またギムレットだけでなく、古典的なカクテルは結構甘めの物が多いですよね・・・・。マティーニだって造られた当時はかなり甘かったであろうと言うのが定説ですし(ドライ・ベルモットがアメリカに殆ど輸入されていなかった故)。
結局人間の舌、嗜好が変わっていったという事なのでしょう。私の父の世代の様に戦後の耐乏期を経験した世代等は”美味しい=甘い”といった感覚が何処かに有るようですし、米国人にも同様の事が有るのかも知れません。
といいますか、飽食の時代=ダイエット食品の売れる時代=摂取カロリー量が十二分な時代=砂糖が当たり前に手に入る時代・・・・・それ以前は、美味しい=甘いといった感覚の人が多かったのでしょう(かの魯山人も結局のところ美味しさとは甘味であると言っていた様な)。
尤も、日本人と白人の味覚の違いも有るのかも知れません(全体に白人の方は、甘くしっかりした味の物を好まれる様です)。
更に言えば味覚の年齢に伴う変化というものも有るかも知れません。私自身、年齢と供に甘いものが大丈夫になって来ました(といますか多くの方が、年齢と供に味覚の幅が拡がる様な気もします・・・)。
そうした事を考えると、もしかすると昔は今よりもっとカクテルが大人の飲み物だったのかも知れません・・・。
まあそんなこんなで、カクテルの味も流行も年とともに変わって来たのでしょう・・・。甘い物からドライ傾向に、そしてライトに・・・。特に80年代、ヤッピー等という言葉の登場した頃から健康志向が強くなったのか、色々の意味でライトになって来た気がします(フランス等でもワインの消費が減り、ホワイトスピリッツベースのライトな飲み物が売れているようです・・・、特に若者に・・・)。
色々書きましたがギムレットを飲むとき、あるいは造るとき。カクテルの美味しさとは何であろう・・・?等と考える事がしばしばあります。私にとって、ギムレットはそんなカクテルなのです。
ますた
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